先に結論を。やり直しは、任せた相手の力不足では起きません。任せる前に決めておくべきこと(境界・順番・確認点)を決めずに渡したから起きます。

人に頼んでも、AIに頼んでも、任せ始めのうちは妙にやり直しが増えます。頼んだほうが楽になるはずだったのに、戻ってきた成果を見て「ここ違う」「そこじゃない」とやり直しを出す。気づけば、自分でやったほうが早かったかもしれない、という気分になっている。

ひとりで事業を回していると、この場面には何度もぶつかります。しかも、やり直しは毎回ちがう理由で起きているように見える。今日は範囲のずれ、次は前提の崩れ、その次は報告の食い違い。原因がばらばらに見えるから、対策の立てようがない気がしてくる。

ところが、AI組織を運営する中でやり直しの記録をためて並べてみると、様子が変わります。ばらばらに見えていたやり直しは、実は同じ3つの型に収まる。逆に言えば、その3つに手を当てれば、やり直しは設計で消せます。

型1 型2 型3 範囲が曖昧 どこまでやるか 決めずに渡した 順番の追い越し 未確定の前提の上に 下流を先に作った 報告を鵜呑み 「やりました」を 現物を見ず信じた 決め損ねたもの 決め損ねたもの 決め損ねたもの 境界 順番 確認点 対象を一言で 先に決めて渡す 上流を確定させて から下流に着手 急所だけ現物を 自分の目で見る
やり直しは3つの型に収まる。
原因はどれも相手の力ではなく、渡す前に「境界・順番・確認点」を決め損ねたこと。

やり直しは「能力」ではなく「渡し方」で起きる

まず大前提を1つ。やり直しの原因を、相手の側に置かないでください。

任せてやり直しが出ると、つい「やっぱり任せられない」「この相手はまだ早い」と考えたくなります。目の前で成果がずれて戻ってくると、そう思うのは自然です。ただ、原因をそこに置くと、相手を替えても、AIの精度を上げても、次も同じことが起きます。

なぜかというと、やり直しの大半は、渡す前の段階ですでに決まっているからです。何を、どこまで、どの順番で、最後はどこで確認するか。これを決めずに渡せば、相手が人でもAIでも、優秀でもそうでなくても、結局やり直しになります。決めていない以上、相手は自分の判断で埋めるしかなく、その埋め方がこちらの想定とずれるからです。

つまり、やり直しは受け手の問題ではなく、渡し方の設計の問題です。設計の話なら、こちらの手でなおせます。運営の記録の中で繰り返し起きたやり直しは、次の3つの型に分かれました。順に見ていきます。

型1:渡す範囲(境界)を曖昧にしたまま着手させた

1つめ。「どこまでやるか」を決めずに渡すと、相手は自分なりに範囲を決めて走り出す。そして、その範囲がこちらの想定とずれて、やり直しになります。

いちばん多いのが、この型です。たとえば「これは入れないで」といった短い指示を出す。頼む側の頭の中では、対象は一部のつもり。ところが、相手にはその「一部」が見えていません。

すると何が起きるか。相手は、全部を対象にして大きく作り込んでしまうこともあれば、逆にごく一部だけ触って終わることもある。どちらにしても、こちらの想定とはずれる。戻ってきた成果を見て「いや、そこまでじゃなかった」「いや、そこも入れてほしかった」となる。これがやり直しです。

なぜ起きるのか

頼む側は、範囲を「言わなくても伝わる」と思い込んでいるからです。自分の中では当たり前すぎて、わざわざ口に出すまでもない。ところが、相手の頭の中には、その当たり前が入っていません。頼む側だけが知っている前提を、共有したつもりになっている。ここがずれの出どころです。

短い指示ほど危ないのは、このためです。「これ、やっといて」「ここ直して」の「これ」「ここ」が、どこからどこまでを指すのか。頼む側と受け手で一致している保証は、どこにもありません。一致しているつもりで渡すから、ずれる。

消し方

頼む前に、「どこまでが対象で、どこからは対象外か」を一言で先に決めて渡します。渡す情報は、次の3つで足ります。

  • 対象はここからここまで
  • これは含む、これは含まない
  • 迷ったら、勝手に広げず、こちらに聞く

この3つを渡すだけで、型1のやり直しはほとんど消えます。かなめは、迷ったときに憶測で進ませないことです。範囲が曖昧なまま「たぶんこうだろう」で着手させると、その「たぶん」が外れたとき、まるごとやり直しになります。曖昧なら、その場で範囲を確定してから着手させる。やることはこれだけです。

型2:まだ決まっていない前提の上に、先に下流を作らせた

2つめ。上流の方針がまだ固まっていないのに、それを前提に下流を作り進めると、上流が決まった瞬間に下流ごと作り直しになります。

上流と下流、という言い方を先に決めておきます。ここでの上流は「大きな方針」、下流は「その方針にもとづく具体的な成果物」を指します。方針が先にあって、成果物が後から乗る。この順番が本来の流れです。

型2は、その順番を追い越したときに起きます。大きな方針がまだ揺れている。でも手を止めたくないから、その揺れている前提の上に、具体的な成果物を先に作り進める。そして、上流の方針が決まる。決まった内容が、下流を作ったときに置いていた前提と違う。すると、せっかく作った下流が、まるごと使えなくなる。前提が変わったので、その上に乗っていたものは全部やり直しです。

なぜ起きるのか

止まっているのが怖いからです。方針が決まるのを待っている時間が、何もしていない時間に見える。だから、決まる前に、なんとなく動いておきたくなる。

ところが、まだ決まっていない前提の上に作ったものは、前提が決まった瞬間に当たり外れが出ます。当たれば運がよかっただけ。外れれば、作った時間がまるごと消えます。さらに厄介なのが、複数の前提で並行して作り進めてしまう場合です。「Aかもしれないし、Bかもしれないから、両方作っておこう」とやると、方針が決まった瞬間に片方は必ず捨て札になる。動いた気はあるのに、半分は最初から捨てる前提だった、ということになります。

消し方

固める順番を守ります。前提(上流)を先に確定させてから、下流に着手させる。判断の手順は次の3つです。

  • いま揺れているのは、上流か、下流か
  • 揺れているのが上流なら、下流には手をつけさせない
  • 上流が決まるまで動かしたいなら、下流ではなく上流を決める作業に時間を使う

待つのが怖いなら、待っている時間を「上流を決める時間」に変えればいい。下流を見切り発車させるのではなく、上流を1つでも確定させる。確定が増えるほど、その上に乗せる下流のやり直しは減っていきます。

型3:「やりました」の自己申告を、現物を見ずに信じた

3つめ。受け手の「やりました」「直しました」を、現物を見ずに信じて次へ進むと、後でまとめてやり直しになります。

これがいちばん見えにくい型です。相手は「直しました」「反映しました」と報告してくる。こちらは、それを信じて次の工程へ進む。ここまでは、ごく普通のやりとりに見えます。

ところが、後で実物を見ると、直っていない。あるいは、別の場所を直していた。あるいは、直したこと自体は合っているけれど、こちらが見ているものと版がずれていて、最新が反映されていない。報告は正しいつもりなのに、現物がついてきていない。

報告を鵜呑みにして先へ進んでいると、このずれが下流にどんどん積み上がります。そして、ある時点でまとめて発覚する。気づいたときには、ずれた状態の上に積んだものを、全部やり直すことになります。

なぜ起きるのか

報告は、現物そのものではないからです。報告は「やったつもり」を言葉にしたもの。やったつもりと、実際に反映されたことの間には、いつもすき間があります。

人もAIも、悪気なく「直しました」と言います。本人は直したつもりなのです。それでも、保存し忘れた、別のファイルを触っていた、指示を一部だけ反映した、といったずれは普通に起きる。報告を信じること自体が悪いのではありません。報告だけで次へ進むのが危ないのです。

消し方

重要なものは、報告ではなく現物を、最後に自分が確認してから先へ進めます。

ただし、全部を確認していたら、任せた意味がなくなります。そこで、確認する場所を絞ります。目安は次の3つです。

  • 対外に出るもの(お客さんの目に触れるもの)
  • お金や約束が絡むもの
  • そこがずれると、下流が全部やり直しになる急所

この3つだけは、報告でなく現物を自分の目で見る。それ以外は報告を信じて流す。確認を全部やるのでも、全部やめるのでもなく、効くところだけに絞る。これで、型3のやり直しは止まります。

3つに共通する、たった1つの根っこ

ここまで3つの型を見てきました。並べると、根っこは1つの場所に集まります。

  • 型1:渡す**範囲(境界)**を決めずに渡した
  • 型2:固める順番を守らずに下流を作らせた
  • 型3:最後の確認点を置かずに報告を信じた

境界・順番・確認点。どれも、任せた相手ではなく、渡す側が任せる前に決めておくことです。そこを決めずに渡したから、やり直しになった。

逆に言えば、この3つを渡す前に決めておけば、やり直しは設計で消せます。やり直しは、相手をもっと優秀にすれば減るものではありません。渡し方を直せば減るものです。だから、任せてやり直しが増えても、相手を疑う前に、渡し方を見てください。たいてい、境界・順番・確認点のどれかが抜けています。

まとめ

  • やり直しは相手の能力ではなく、渡し方の設計で起きる
  • 型1=範囲を曖昧にしたまま着手させる。消し方は、対象の境界を一言で先に決めて渡す
  • 型2=決まっていない前提の上に下流を作らせる。消し方は、上流を確定させてから下流に着手させる
  • 型3=「やりました」を現物を見ずに信じる。消し方は、急所だけ現物を自分の目で確認する
  • 共通の根っこは、境界・順番・確認点を渡す前に決めなかったこと

3つを渡す前に決める。たったそれだけで、任せたあとのやり直しは目に見えて減っていきます。そして、最後の確認点のうち対外とお金の急所を手元に残しておけば、任せても最後の一線は自分の側に残ります。

やり直しは、任せる力の問題ではなく、渡し方という設計の問題です。設計なら、今日から手を入れられます。

今日のアクション

直近で「やり直しを出した一件」を、1つ思い出してみてください。

  • その一件は、型1・型2・型3のどれだったかを当てはめる
  • 抜けていたのは、境界・順番・確認点のどれかを書き出す
  • 次に同じ相手へ頼むとき、その1つだけを先に決めてから渡す

3つ全部を一度に直さなくていいです。いちばん多い型を1つ消すだけで、やり直しの体感はだいぶ変わります。