先に結論を。AIに頼んで「思ったのと違うもの」が返ってくるのは、多くの場合、指示の書き方が足りないからです。渡すときに、次の4つを短くでいいので書き添える。何を作るか・どこまでやるか・使う材料や前提・お手本かNG例。この4つが入っているだけで、返ってくるものが実用に近づき、やり直しが減ります。

AIに仕事を頼んでみたのに、返ってきたものが的外れで、結局やり直し。何度かこれを経験すると、「やっぱり自分でやったほうが早い」と手が離れなくなります。ひとりで事業を回していると、たいていここでつまずきます。

ただ、返ってくるものが的外れなのは、AIの能力の問題とは限りません。多くの場合、こちらが渡した指示に、AIが判断に使うための情報が足りていないだけです。今回は、なぜ足りなくなるのか、そして最初のひと声に何を書き添えれば足りるのかを、具体例つきで整理します。

なぜ「思ったのと違うもの」が返ってくるのか

口頭でその場で頼む感覚のまま書くと、AIには前提が渡っていないからです。

順を追って説明します。人に仕事を頼むとき、前提の多くは言葉にしていません。相手が事情を知っているからです。たとえば、隣の席の人に「あの件、返信しといて」と頼む。これで通じるのは、相手が「あの件」が何を指すか、どんな温度で返せばいいか、どこまで自分で判断していいかを、すでに知っているからです。言わなくても分かっている部分が、たくさんある。

AIに頼むときも、この口頭の感覚のまま書いてしまいがちです。「見積もり作って」「この問い合わせに返信して」と、短く投げる。ところが、AIはその場の事情を共有していません。「あの件」が何か、どんな様式で出せばいいか、どこまでやっていいか。人になら省略できた前提が、AIには渡っていない。

前提が渡っていないとき、AIは空欄を自分の推測で埋めます。埋め方がこちらの意図と合えば、それらしいものが返ってくる。合わなければ、的外れなものが返ってくる。つまり「思ったのと違う」は、AIが勝手をしたのではなく、渡していない前提をAIが推測で埋めた結果です。

だとすれば、打つ手ははっきりします。推測で埋めさせている前提を、こちらから先に書き添える。これだけで、返ってくるものは実用に近づきます。

最初のひと声に入れる4つ

書き添えるのは、次の4つです。長い文章はいりません。それぞれ一言で十分です。

  1. 何を作るか(成果物の形):何が出てくればOKか。「見積もりの下書き」「問い合わせへの返信文案」のように、ゴールを一言で。
  2. どこまでやるか(範囲):含むこと・含まないこと。迷ったら勝手に広げず、こちらに確認させる。
  3. 使う材料・前提:どの情報を見て作るか。過去のやり取り、この条件、この様式、といった手がかり。
  4. お手本 or NG例:「こんな感じで」を1つ、または「これは避けて」を1つ。1つ見せるだけで精度が変わる。
最初のひと声に書き添える4つ 1 何を作るか(形) 何が出てくればOKか。 ゴールを一言で。 2 どこまでやるか(範囲) 含むこと・含まないこと。 迷ったら確認させる。 3 使う材料・前提 どの情報を見て作るか。 過去のやり取り・様式など。 4 お手本 or NG例 「こんな感じで」を1つ、 または「これは避けて」を1つ。
どれも一言で十分。
この4つを短く書き添えるだけで、AIが推測で埋める空欄が減り、返ってくるものが実用に近づく。

1つずつ、なぜ効くのかを見ていきます。

1つめ、何を作るか。 これがないと、AIはそもそも何を目指せばいいか分かりません。「見積もりについて教えて」なのか「見積もりの下書きを作って」なのかで、返ってくるものは別物です。前者なら解説が返り、後者なら文書が返る。ゴールの形を一言で示すだけで、出口が定まります。

2つめ、どこまでやるか。 範囲を切らないと、AIは足りないより多いほうがいいと判断して、頼んでいないところまで作り込むことがあります。あるいは逆に、途中で止まる。ここで効くのが「迷ったら勝手に広げず、こちらに確認させる」の一言です。これを入れておくと、AIは判断に迷ったとき、独断で進めずに聞き返してきます。広げすぎて作り直し、を防げます。

3つめ、使う材料・前提。 AIは、こちらが渡した情報の範囲でしか作れません。過去のやり取りを踏まえてほしいなら、それを見るように書く。決まった様式があるなら、それを渡す。材料を指さないと、AIは一般論で埋めます。一般論で埋まった見積もりは、たいてい実務に合いません。

4つめ、お手本かNG例。 これがいちばん効きます。「こんな感じで」を1つ見せると、AIはその温度・粒度・言い回しを手本にします。文章で「丁寧に」「簡潔に」と指定するより、実物を1つ見せるほうが速く伝わる。手本がなければ、「これは避けて」というNG例を1つでも構いません。避けるべき方向が分かるだけで、外れ方が減ります。

具体例:問い合わせへの返信を頼む

言葉だけだと掴みにくいので、実際の頼み方で見てみます。

たとえば、届いた問い合わせへの返信文案を、AIに作ってもらう場面。4つを書き添えると、指示はこうなります。

  • 何を作るか:この問い合わせへの、返信文案の下書き。そのまま送れる完成品ではなく、最後に自分で手を入れる前の下書きでよい。
  • どこまでやるか:本文の文案まで。金額や納期など、まだ確定していない数字は、こちらで埋めるので空欄にしておく。勝手に数字を入れない。
  • 使う材料・前提:このお客さまとの過去のやり取りを踏まえる。文体は、ふだん使っている丁寧語で。長さは10行以内。
  • お手本 or NG例:以前このお客さまに送った返信(別途貼る)くらいの温度で。逆に、かしこまりすぎた定型文の丸写しは避ける。

ここまで書いても、数十秒です。特に「まだ確定していない数字は空欄にして、勝手に入れない」の一言が効きます。AIが気を利かせて仮の金額を書き込み、それに気づかず送ってしまう、という事故を防げるからです。

ビフォーアフター:同じ仕事を頼み方だけ変える

同じ「見積もりの下書き」を頼むのでも、書き方でこれだけ変わります。

まず、口頭の感覚のまま投げた指示。

この案件の見積もり作っておいて。

これだと、AIは案件の中身も、どの様式で出せばいいかも、どこまで含めればいいかも分かりません。空欄を推測で埋めるので、それらしい見積もりは出てきますが、金額の根拠も様式もこちらの実務とはずれています。結局、ほぼ作り直しです。

次に、4つを書き添えた指示。

この案件の見積もりの下書きを作ってください(何を作るか)。項目と概算の内訳まで。金額の最終確定はこちらでやるので、確定していない数字は「要確認」と書いておいてください(どこまで/範囲)。前回この取引先に出した見積もり(別途貼ります)の様式と項目立てに合わせてください(材料・前提)。書きぶりは、その前回のものと同じ温度で。逆に、うちで使っていない項目名を勝手に足すのは避けてください(お手本・NG例)。

長くなったように見えますが、書くのは1分ほどです。そして返ってくるのは、様式が合っていて、確定前の数字が「要確認」で立ててあり、あとは中身を詰めるだけの下書きです。ゼロから作り直すのと、下書きに手を入れるのとでは、かかる時間がまるで違います。やり直しが、手直しに変わる。これが4つを書き添える効果です。

出す前の確認と最終判断は、自分が握る

ここまでで、返ってくるものの精度は上がります。ただし、出す前の確認と最終判断は、必ず自分の手に残してください。

4つを書き添えても、AIが完璧なものを返すわけではありません。確定前の数字が混ざることもあれば、こちらの意図とわずかにずれることもあります。だから、下書きを受け取ったら、そのまま外に出さない。金額は合っているか、送り先は正しいか、約束したつもりのない納期が紛れていないか。外に出る手前で、自分の目を一度通す。

指示の書き方を整えるのは、AIに丸投げして放置するためではありません。的外れなやり直しを減らして、自分は最後の確認と判断に集中するためです。効くところは任せて、外に出す前の一線だけは自分で見る。この線を握っておけば、任せても仕事が自分の意図から外れることはありません。

まとめ

  • 「思ったのと違うもの」が返るのは、口頭の感覚のまま頼んで、前提がAIに渡っていないから
  • 渡っていない前提を、こちらから先に書き添えれば、返ってくるものは実用に近づく
  • 書き添えるのは4つ:何を作るか/どこまでやるか/使う材料・前提/お手本かNG例
  • 特に「お手本を1つ見せる」と精度が上がり、「迷ったら確認させる」で作りすぎを防げる
  • 出す前の確認と最終判断は、必ず自分の手に残す

頼み方を整えるだけで、同じAIから返ってくるものが変わります。難しい設定の話ではありません。最初のひと声に、4つを短く書き添えるだけです。

今日のアクション

いつもAIに頼んでいる仕事、あるいはこれから頼みたい仕事を、1つ選んでみてください。

  • その仕事について、4つを一言ずつ書き出す(何を作るか/どこまで/材料・前提/お手本かNG例)
  • その4つを添えて、実際に1回頼んでみる
  • 使えた頼み方を、次から使い回せるようにメモに残す

一度書いておけば、次からはそれを土台に少し直すだけで済みます。よく頼む仕事ほど、最初に1回書いておく効果が大きくなります。