<先に結論>

書いた文章が「冷たい」と言われたら、語尾や言い回しを直す前に、宛先を疑ってください。読み手が入れ替わったのに、前の読み手に向けて書いた文がそのまま残っていることがあります。

ひとつの商品を出すのに、文書を2つ作りました。1つは、買うかどうかを決める人が読む販売ページ。もう1つは、買った人に渡す手引きです。書いてある中身は重なるところが多いので、どちらも1本の原稿から作りました。

その手引きを私が読み返したところ、「全体的に少し冷たい」「突き放している感じがする」と感じました。

最初は書きぶりの問題だと考えました。やわらかい語へ置き換えていけば消えるはずだ、という見当です。この見当が外れていました。

数えたら、宛先の違う文が混ざっていた

文体をいじるのをやめて、冷たく感じる箇所を1つずつ拾い出しました。

出てきたのは、この手引きが扱わない範囲を伝える文でした。「ここから先はこの手引きには含みません。そこは別のかたちで扱っています」という趣旨の文が、本編に4か所ありました。

この文自体は、事実として正しい。手引きが引き受ける範囲を正直に書いているだけです。ただし、その手引きは、買ったあとに読むものです。買う前であれば「そういう範囲なのか」と判断の材料になります。買ったあとの人には、選び直す余地がありません。読むたびに、自分が選ばなかったほうの話を聞かされることになります。

もう1つありました。手引きの終わりの締めが、「これはご自分で進められる方のためのものです、という前提を、もう一度確かめておいてください」という形になっていたことです。読むのは、もう買った人です。買ったあとに、向いているかどうかを確かめさせていた。

冷たさの正体は温度ではありませんでした。線引きです。「あなたはこちら側です」と、読んでいる最中に何度も引かれていた。語尾をやわらかくしても、線は消えません。

なぜ、この混入は起きるのか

原因は、冒頭に書いた1本の原稿です。

作る側から見れば、1本にまとめるのはとても自然なやり方です。素材は同じ、順番も同じ、書き直す手間もない。

ただし出来上がった2つは、読み手がまるで違います。

買う前に読むページ買ったあとに読む文書
元になった原稿同じ1本同じ1本
読む人買うかどうか決める人もう決めた人
その人にできること選ぶ。やめる選び直せない
その人に合う文範囲を伝える。判断を助ける進め方を伝える

書いている最中は同じ文章を見ているので、読み手が入れ替わったことに気づく機会がありません。

1本の原稿 買う前に読むページ 読む人=買うかどうか決める人 「これは含みません」 → 判断の材料になる 誠実さとして届く 買ったあとに読む手引き 読む人=もう決めた人 同じ文が、そのまま残る → 選ばなかったほうの案内 「あなたはこちら側です」 流用
同じ原稿から2つ作ると、文はそのまま流れる。
買う前には誠実さだった一文が、買ったあとには線引きに変わる。

AIに書かせるようになると、これは増えます。1つの材料から、販売ページ・案内メール・お渡しする文書・よくあるご質問と、いくつでも出てくるからです。流用が速いほど、宛先の点検が追いつかなくなります。

買う前の人に向いている文は、3つの型で見つかる

読み返すときは、次の3つを探してください。買ったあとの文書に残っていたら、それが冷たさの発生源です。

よくある言い回し買ったあとに読むとどうなるか
1. 選ばせる文「向いていない方は〜」「ご検討のうえ〜」「合わないと感じたら〜」判断を促す文は、判断が終わった人には行き場がない
2. 範囲を切る文「これは含みません」「そちらは別で扱っています」買う前は誠実さでも、買ったあとは選ばなかったほうの案内になる
3. 適性を確かめる文「この前提を確かめてください」「こういう方のためのものです」資格を問われているように読める

直し方は、削除ではありません

見つけた文を消してしまうと、書いてあった事実まで消えます。範囲の話は、買ったあとの人にも必要な情報です。

やることは、その事実の持ち主を、読み手のほうへ移すことです。

  • 「これは含みません」→「ここは、あなたが埋めるところです」
  • 「向いている方のためのものです」→「うまく進める手順は、このあとに書いてあります」

同じ事実を、線引きではなく持ち物として渡す。これで冷たさは落ちます。実際に効いたのは、4か所の宛先を直すことでした。

次から同じことを起こさないために

2つ置きました。

1つは、文書を読み返すときの最初の一手です。読み始める前に「これを読むのは誰か」を1行だけ書いてから読む。 これがないと、書いた人の目で読むことになり、宛先の違いは見えません。

もう1つは、片方を作り直したときの決まりです。販売ページを作り直したら、同じ原稿から出ているもう片方も必ず開く。 同じ原稿から2つを作っている限り、片方だけ直せば、もう片方は取り残されます。

原稿を1本にまとめること自体は、やめなくていいと考えています。速さは実際に効いています。分けるのは原稿ではなく、出すときに、読み手ごとに落とす仕組みのほうです。

まとめ

  • 「冷たい」の原因は文体ではないことが多い。宛先の取り違えを先に疑う
  • 冷たさの正体は温度ではなく線引き。「あなたはこちら側です」が繰り返されている
  • 探すのは3つの型。選ばせる文/範囲を切る文/適性を確かめる文
  • 直し方は、事実の持ち主を読み手へ移すこと
  • 読む前に「これを読むのは誰か」を1行書く。片方を作り直したら、もう片方を必ず開く

今日のアクション

  • 買ったあとの方が読む文書を1つ選ぶ(案内メール、手順書、お渡しする資料など)
  • 冒頭に「これを読むのは誰か」を1行だけ書いてから、通しで読む
  • 3つの型に当たる文を拾い、持ち主を読み手へ移す形に書き直す