3ヶ月目に来る「自分でやったほうが早い」の正体
AIに任せているのに、結局は自分でやり直している。そう感じたときに疑う先は、AIの出来ではありません。一度決めたことを決め直すたび、それを前提に作ったものがまとめて作り直しになります。増えたのは任せる量ではなく、決め直し1回の重さです。
<先に結論>
AIに任せた仕事で「自分でやったほうが早い」と感じたら、AIの出来を疑う前に、自分が一度決めたことを決め直した回数を数えてください。
AIに仕事を任せ始めた最初のうちは、はっきり速くなります。下書きが上がってくる、調べものが返ってくる。手が空くのが分かるので、任せる範囲も自然に広がっていきます。
しばらくすると、感触が変わります。上がってきたものを直す時間が伸びる。指示を書き直す回数が増える。そしてある日、はっきり思います。
これ、自分でやったほうが早いのでは。
3ヶ月というのは目安です。1ヶ月で来る人もいれば、半年もつ人もいます。共通しているのは時期のほうではなく、来る条件のほうです。
たいてい、原因の見当が1つずれています
この時期の「遅くなった感じ」は、次の3つのどれかに読み違えられます。
| 感じていること | よくある診断 | 実際に起きていること |
|---|---|---|
| 上がってくるものの質が落ちた | AIの能力の限界に当たった | 前提のほうが動いた。前提どおりに作られている |
| 指示がうまく伝わらない | 指示の書き方が悪い | 指示は伝わっている。指示の中身が先週と違う |
| 確認の時間が増えた | 任せる量を増やしすぎた | 作り直したぶんが、確認に積み上がっている |
1行目を具体で開きます。先週「こういう人に向けて売る」と決めて、それを前提にページの文章ができあがった。今週になって「やっぱり別の人に向けよう」と決め直した。すると先週できた文章は、いまの前提から見ると的を外したものになります。AIは先週の前提どおりに正しく作っており、変わったのは前提のほうです。 出来上がりだけを見ていると、これが「質が落ちた」に見えます。
3つとも、原因をAIの側か、自分の書き方の側に置いています。動かすべき場所は、そのどちらでもありません。
では、どこで何が変わったのか。
ひとりでやっていたころ、決め直しはタダでした
ここで言う決め直しとは、一度決めたことを、あとから別のかたちに決め直すことです。誰に売るかを決めて、1週間後に別の層のほうがよいと思い直す。商品の呼び方を決めて、もっと伝わる言い方を思いつく。進め方の順番を決めて、逆のほうが早いと気づく。どれも、思いつくこと自体は良いことです。問題は、思いついた日ではなく、そのあとに来ます。
自分ひとりで全部やっているとき、決め直しにはほとんど費用がかかりません。「やっぱりこっちにしよう」と思ったら、頭の中を書き換えて、手を動かす向きを変える。それで終わりです。
任せ始めると、ここが変わります。
決めたことを前提にして、誰かが何かを作っているからです。誰に売るかを決めたので、その人に向けたページができている。商品の位置づけを決めたので、それに合わせた文面ができている。進め方の骨格を決めたので、その順番で手順ができている。
先に決めたことを1つ動かすと、それを前提に作られたものが、まとめて作り直しになります。
そして、作られたものは日が経つほど増えます。
- 始めたころは、作ったものがまだ少ない。決め直しても、直す先が少ないので軽い
- 続けていると、作ったものが積み上がる。同じ1回の決め直しが、重くなる
任せる量が増えたのではありません。決め直し1回の重さが上がったのです。 揺り戻しが「慣れたころ」に来るのは、ちょうどその時期に、作ったものが溜まるからです。
同じ判断でも、遅い時期にやるほど高くつきます。
決め直しそのものを悪者にする話ではありません。以前に「まだ決まっていない前提の上で先へ進ませると、やり直しになる」と書きました。あちらは決まる前に走る問題で、打つ手は「決まるまで待つ」でした。今回は決まったあとに開け直す問題なので、打つ手が逆になります。
開け直さない範囲を、先に決めておく
決め直しを止める、と書くと乱暴に聞こえますが、全部を止める話ではありません。開け直してよいものと、しばらく開け直さないものを分けるだけです。
| 開け直してよい | しばらく開け直さない | |
|---|---|---|
| 中身の例 | 見せ方・言い回し・並び順・作業のやり方 | 誰に売るか・商品の位置づけ・名前・進め方の骨格 |
| 動かしたときの影響 | 直す先が、その場で収まる | それを前提に作ったものが、ほぼ全部作り直しになる |
| 開けてよい合図 | いつでも | 先に書いておいた条件が起きたとき |
分ける基準は、好みでも重要度でもありません。動かしたときに、それを前提に作ったもののどれだけが作り直しになるかです。
分けたあとに、もう1つだけやることがあります。
「しばらく開け直さない」に入れたものには、開ける条件を先に1行書いておいてください。
- ×「当面は変えない」
- ○「◯◯が起きたら、そのときに開け直す」
条件は、あとから見て「起きたかどうか」を言い切れる形にします。気持ちや程度で書くと、結局はその日の判断に戻ってしまいます。
- ×「反応が悪かったら見直す」……どのくらいが悪いのかが、その日の気分で動く
- ○「問い合わせが3ヶ月続けてゼロだったら見直す」
- ○「同じ質問を、別のお客様から3回もらったら見直す」
- ○「価格を理由に断られた件が5件たまったら見直す」
数字そのものに正解はありません。事業の規模でも、月に来る件数でも変わります。大事なのは、条件を満たしたかどうかを迷わず判定できることです。 判定に迷う条件は、書いていないのとほとんど同じです。
条件を書かずに閉じても、閉じたことになりません。良い案を思いついた日に、その良さを理由に開いてしまうからです。思いつきは、そのときは常に正しく見えます。 条件を先に書いておくと、「これは開ける条件に当たるか」という別の問いに変わります。開けるかどうかを、思いついた日の気分で決めずに済みます。
同時に動かしている数を、数えてください
もう1つあります。決め直しが起きたときの被害は、そのとき同時に動かしているものの数に比例します。
3つ動かしていれば3つに波及し、7つ動かしていれば7つに波及する。動かしている数が多いほど、1回の決め直しが高くつきます。
何を1つと数えるかを決めておいてください。誰かが、それを前提にして何かを作り始めたものを1つと数えます。頭の中で考えているだけのもの、いつかやろうと書き留めてあるだけのものは入りません。作り始めた時点で、決め直しの影響を受けるものが生まれます。逆に言えば、作り始めさせた数がそのまま、決め直し1回の値段になります。
上限をいくつにするかは、事業によって違います。決めるべきは数字そのものより、次の2つです。
- 上限を持つこと(数を決めずに始めない)
- 1つ閉じるまで、次を開けないこと
「あと1つくらいなら」で開けたものが、あとで全部、作り直しの対象になります。
この時期に、やらないほうがいいことが2つあります
1つ目は、任せるのをやめることです。 この時期の遅さは、仕組みが効いていないから起きているのではありません。効いているから作ったものが積み上がり、その結果として決め直しが高くついています。ここでやめると、積み上がったものを自分で抱え直すことになります。
2つ目は、指示を長くすることです。 決め直しは、指示の長さでは止まりません。先週と今週で中身が違う指示は、どれだけ丁寧に書いても、先週の成果物を作り直しに変えます。書く量を増やすのではなく、書く前に決めておく範囲のほうを広げてください。
まとめ
- 「自分でやったほうが早い」は、AIの能力の問題ではないことが多い
- 増えたのは任せる量ではなく、決め直し1回の重さ。作ったものが積み上がるほど高くなる
- 開け直してよいものと、しばらく開け直さないものを分ける。基準は「それを前提に作ったもののどれだけが作り直しになるか」
- 閉じたものには、開ける条件を先に1行書く。条件がないと、良い案を思いついた日に開く
- 同時に動かす数に上限を持ち、1つ閉じるまで次を開けない
今日のアクション
- この2週間で「一度決めたのに決め直したこと」を書き出す(3つで足ります)
- そのうち、それを前提に作ったものがいちばん多かった1つを選び、「次に開けてよい条件」を1行で書く
- いま同時に動かしているものを数え、1つ閉じるまで次を開けないと決める