AIに任せると"かえって遅くなる"仕事の見分け方
AIに任せると、かえって遅くなる仕事があります。見分ける問いはひとつ。「口で説明するより、自分でやったほうが速いか」。速いなら、いまは自分でやる。
先に結論を。任せたほうが速い仕事もあれば、任せないほうが速い仕事もあります。見分ける問いはひとつ。「この仕事、誰かに口で説明するより、自分でやったほうが速いか」。速いなら、いまは自分でやってください。無理に任せると、かえって遅くなります。
任せられるものは任せていく。ひとりで事業を回すなら、その方向で間違いありません。手が2本しかない以上、全部を自分で抱えていたら、事業は自分の体力の分までしか大きくなりません。
ただ、その勢いのまま「何でも任せよう」と進むと、逆に手間が増える場面が出てきます。任せたつもりが、説明と手直しに追われて、自分でやったほうが早かった、となる。これは根気の問題でも、任せ方が下手なわけでもありません。そもそも、任せると遅くなる種類の仕事があるからです。今回は、その見分け方を整理します。
なぜ「任せると遅くなる」ことが起きるのか
任せる作業には、本体の仕事とは別に「渡すための手間」が必ずかかるからです。ここが本体より重いと、任せるほど遅くなります。
何かを任せるとき、いきなり作業だけを渡すことはできません。まず、何をどこまでやってほしいかを伝えます。前提になる背景を説明します。出てきたものを確認して、ずれていれば直してもらう。この「伝える・確認する・直す」の手間は、相手が人でもAIでも必ず発生します。
任せる判断は、この渡す手間と、自分でやる手間の、引き算で決まります。渡す手間より自分でやる手間のほうが大きければ、任せたほうが速い。逆に、渡す手間のほうが大きければ、任せると遅くなります。
繰り返し来る仕事は、たいてい任せたほうが速くなります。渡す手間は最初の一度だけで、あとは同じ型で何度も回せるからです。一度渡してしまえば、二度目からは説明がいりません。ここが、任せることの効きどころです。
渡す手間のほうが重いなら、いまは自分でやったほうが速い。
問題は、渡す手間が毎回かかる仕事や、そもそも渡す手間が異常に重い仕事です。ここを無理に任せると、引き算がずっとマイナスのままになります。以下、その典型を4つ挙げます。自分の仕事に当てはめながら読んでみてください。
遅くなる仕事①:前提の説明が、作業本体より長い
渡すための説明に30分かかる仕事を、自分でやれば10分で終わる。こういう仕事は、任せると遅くなります。
たとえば、ある案件について短いメールを一本返す。作業そのものは5分で終わります。ところが、その5分の返信を誰かに任せようとすると、これまでの経緯、相手との温度感、今回の落としどころを、全部説明しないといけません。説明に20分かかる。しかも一度きりで、次に同じ状況は来ない。
これは、渡す手間が作業本体を大きく上回っている状態です。任せた瞬間に、合計の時間は増えます。しかも説明したものが正しく伝わったかを確認する手間まで乗る。自分でやれば5分で済んだものが、任せると30分になる。
見分けの目印は、「説明のほうが作業より長そうだ」と感じるかどうかです。頭の中でざっと、渡す説明にかかる時間と、自分でやる時間を比べてみてください。説明のほうが長いなら、それはいま自分でやる仕事です。
遅くなる仕事②:一度きりで、型にならない
次にまた来る仕事なら、渡す手間は投資になります。二度と来ない仕事だと、渡す手間はただの持ち出しです。
任せることが効くのは、同じ型を何度も使い回せるからでした。最初に渡す手間をかけても、二度目、三度目でその手間を回収できる。だから前に進みます。
ところが、一度きりしか発生しない仕事だと、この回収ができません。今回のためだけに手順を説明し、確認し、直す。それが終わったら、もう二度と使わない。渡す手間は投資ではなく、ただ捨てるだけになります。
たとえば、今年だけの特別な事情で作る一枚の資料。ある相手との、その場限りのやり取り。こういう「型にならない仕事」は、任せる準備をしている間に、自分でやれば終わっています。
見分けの目印は、「これは次もまた来るか」と自分に聞くことです。繰り返し来るなら、多少説明が重くても任せる価値があります。一度きりなら、任せる準備をせず、さっと自分で片づけたほうが速い。
遅くなる仕事③:その場の呼吸や、相手との関係が要る
相手の反応を見ながら、その場で調整する仕事は、渡した瞬間に肝心の部分が抜け落ちます。
仕事の中には、決まった手順に落とせないものがあります。相手が渋い顔をしたら引く、乗ってきたら踏み込む。長く付き合ってきた相手だから通じる言い方をする。その場の空気を読んで、次の一手を変える。こうした仕事は、進め方が事前に決まっていません。相手の出方で毎回変わります。
これを任せようとすると、「相手がこう来たらこう、ああ来たらああ」と、起こりうる分岐を全部説明しないといけません。ところが、実際の場面はそんなに単純に割り切れません。説明しきれない部分が必ず残り、そこで判断がずれます。
見分けの目印は、「この仕事は、相手やその場の空気で進め方が変わるか」です。変わるなら、いまは自分の手に残しておく仕事です。関係や呼吸が要る仕事は、手順ではなく人に貼りついているので、渡すと肝心なところが伝わりません。
遅くなる仕事④:自分の頭の中だけにある暗黙知が多い
「なんとなくこうしている」を言葉にできていない仕事は、任せる前にまず、言葉にする作業が要ります。そこが重ければ、いまは任せどきではありません。
長くやってきた仕事ほど、手順が体に染みついています。なぜその順番なのか、なぜそこで一手間かけるのか。理由を聞かれても、うまく言葉にできない。でも、やれば正しくできる。こういう暗黙知の塊のような仕事があります。
これを任せるには、まず自分の中の「なんとなく」を、渡せる言葉に翻訳しないといけません。この翻訳が、けっこう重い。頭の中では一瞬でやっていることを、順を追って説明可能な形にほどく作業です。翻訳が済んでいない状態で無理に渡すと、抜けた部分でずれが起き、手直しが延々と続きます。
ただ、ここは①〜③と少し性質が違います。暗黙知の翻訳は、一度やれば以後ずっと効く投資です。繰り返し来る仕事で、暗黙知が原因で任せられないなら、時間を取って言葉にする価値は十分あります。任せないと決めるのではなく、「翻訳が済むまでは、いったん自分で」という順番の話です。
見分けの目印は、「これを人に説明しようとすると、うまく言葉にできない部分があるか」です。あるなら、いきなり渡さず、まず一度、自分が言葉にできるところまで来ているかを確かめてください。
「任せない」は、ずっとではない
ここまで、任せると遅くなる仕事を4つ見てきました。ひとつ、大事な補足をしておきます。
これらは「一生、自分で抱え続ける仕事」ではありません。いまの時点では自分でやったほうが速い、というだけです。事情が変われば、任せる側に移ります。
一度きりの仕事が、実は毎月来るようになった。その場の呼吸が要ると思っていたやり取りが、よく見ると決まったパターンで動いていた。頭の中の暗黙知を、あるとき言葉にできた。こうなったら、その仕事は任せる側へ動きます。「任せない」は固定ではなく、いまの状態での判断です。
逆に言えば、任せると遅くなる仕事を無理に手放そうとするより、それが「任せられる形」に変わるのを待つ、あるいは変えにいくほうが、結局は速い。焦って全部を手放すことが目的ではありません。効くところから手放して、効かないところは無理をしない。この見極めのほうが、進みが速くなります。
まとめ
- 任せる判断は「渡す手間」と「自分でやる手間」の引き算で決まる。渡す手間のほうが重ければ、任せると遅くなる
- 遅くなる典型は4つ。①前提の説明が作業本体より長い ②一度きりで型にならない ③その場の呼吸や相手との関係が要る ④暗黙知が多い
- 見分ける問いはひとつ。「口で説明するより、自分でやったほうが速いか」。速いなら、いまは自分でやる
- 「任せない」は固定ではない。繰り返しになった・型が見えた・言葉にできた、で任せる側へ動く
任せられるものを任せていく方向は、変わりません。ただ、その中に「いまは任せないほうが速い」仕事が混じっています。そこを見分けて手元に残すことは、後ろ向きな判断ではなく、全体を速く進めるための判断です。
今日のアクション
いま「任せようかな」と迷っている仕事を、1つ思い浮かべてください。それに、次の問いを当ててみます。
- この仕事、誰かに口で説明するより、自分でやったほうが速いか
- この仕事は、次もまた来るか(来ないなら、いまは自分で)
- 進め方は、相手やその場の空気で毎回変わるか(変わるなら、いまは自分で)
3つのうち「自分でやったほうが速い・次は来ない・毎回変わる」に当てはまるものが多いほど、それはいま手元に残す仕事です。無理に任せず、まず自分で片づけてください。